グランカスタマ③

中井は落合南長崎の隣。

複数の坂で繋がった複雑怪奇な下町だ。

新宿と言いながらまさに下町。しかも練馬にも似た荒くれた町だ。
故にそこには昔ながらの人情が息づいている。
正義や清廉が幅を利かせていない、人間が活きる街だ。

そんな中井にジョグで乗り込み、
俺は奴らの家にたどり着いた。

チャイムをピンポーンと押す。

「ほいー、いらしゃーい」
「ういうい、あけおめ」

なんとも雑に、もうこのコロナ禍で一年以上会っていなかったが、
いつものように。
SNSをやるようなタイプではないユリはそんな感じで俺を迎えてくれた。

これは理屈ではなくてお互い子育ての一番重い時期を支え合いやって来た戦友だからこその連帯感。俺はパパ、あいつはママ、だから何だっていうんだ。
俺は子らの送り迎えを95%こなし、ユリは四人の子を育てながら奮闘していた。お互い立ち位置は違いながらもそれぞれの苦労を労いあった。

生来俺はなぜか、俺自身はそうではないのにヤンキーに好かれる傾向があり、
ユリは根性焼きの跡があるレベルのヤンキーだったのも一因だろう。

保育園から見てきた子供らももう中学生とか五年生だとか高校生だとか職人だとか。それなりに今や俺の顔も真っすぐに見ないけど、でも同じテーブルに座ってどこかに行く事もない。話しかければなんだか恥ずかしそうに、後日LINEの登録してくるくらいには俺の居場所をくれる、赤の他人なのに親戚、魂の親戚。

ユリの彼氏も起きて来て正月に混ぜてもらう。行き場を失った俺が漂いながら、ようやく正月らしい席に座る事が出来た。

「ほんでな、実は俺、離婚するから家を追い出されたんや」

いきなりの火の玉ストレート。

ユリは頭抱えて、

「ええ!なんでよ、まあ、そうなるよね」

一瞬で逡巡しつつも腑に落ちた模様。
流石は戦友である。

彼氏は相変わらず顔色変えずに話を聞いている。
ここに及んで気がついたが、この彼氏はこういう人、良い悪いは別に。

ああだこうだ経緯を聞かせるもユリの見解は。

「そうだね、いろいろあるけどあたしはあの子の味方。いまあんたが言ってる事は嘘じゃないだろうけど片方だからね、あんたもたいがいなのはわかってるでしょ」

これが言える奴だから俺はここに来た。
安心できる。

周りに居てる子らにもああだこうだと絡みながら、
笑いあいながら彼氏が作る雑煮を食いながら呑んでいるとまたチャイムが鳴った。

近所に住むユリの母親が来た。
御年72歳、短髪の蒼髪で巨乳。
BMWのリッターバイクで二年前に北海道に行き事故って死にかける。
最近まで高田馬場の駅前で蕎麦屋をやっていた。

もう十分おなか一杯。
めっちゃいい女。

そのいい女が俺の顔を見てすぐに、

「あんた、大丈夫かい?」

何も話していないのに、物凄い楽しく過ごしていたのに、
一発で見抜かれた。

「そうかい、まあでもいいよ、おまじないしてあげる」

おっぱいスリスリ、おっぱいスリスリ。

「これで大丈夫!ご利益本当にあるんだから!」

めっちゃかわいい!有難い!!

その後、なんだかんだ話したが覚えてはいない。
俺は、散々呑んでお母さんが帰ったタイミングで中井を後にした。

懐かしい家族と魔女の祝福を受けて、
一路、歌舞伎町へ。