中井から南下して中野坂上辺りで東へ。
そこから新宿駅の巨大な構造を回りこんで新宿東口方面へ。
そこは真夜中の新宿歌舞伎町。
正月の歌舞伎町。
この街に帰ってきたのはもう十数年ぶり。
かつて俺は某風俗ポータルサイトの営業マンをしていた。
歌舞伎町には店を持っていなかったが同僚の店に呼ばれてあれこれしていた。
俺の担当は、恵比寿、鶯谷、池袋、大宮、関内、西川口、錦糸町、小岩、新小岩。
あの頃、仕事に就いたばかりの俺にあれこれ仕込んでくれた上司が言っていた。
石原都知事の浄化作戦で歌舞伎町もつまらなくなった。
歌舞伎町には夜になればまっすぐ歩けなくなるくらい人が集まっていた。
しかし浄化作戦が行われ街から人が消えてしまった。
そしてブラジル人が消えて中国人が増えた。
つまらねぇ、と。
今の歌舞伎町は自分にとって、
リーマンショックの時にあの業界から足を洗い、
今となっては「うな鐵」くらいしか知りようもない古巣だ。
ゴールデン街で朝方寝転んでいたら角刈りのおかまの爺さんだか婆さんだかに起こされて一緒に茶を飲んだり、元旦に60歳オーバーのバーのママと一緒に花園神社の初詣に行ったが人が多すぎて断念したり、謎の老人集団にぼったくられたり、そんなことは10年以上も遠い昔となってしまった。
とりあえず歌舞伎町に降り立ち直面したのはジョグの置場。
クッソ高い家賃の歌舞伎町には原付すら路駐する場所も甘くはない。
油断すればクッソ金がかかる。
そこはもう嗅覚に頼るしかない。
帰る家を無くしたなぜ俺がそんな金のかかる歌舞伎町になぜ来たかと言えば、
1月4日から仕事が始まり現場は都庁前。
なのでもう新宿にとりあえず仮の宿を見つけるしかない。
そういう理由からだった。
アテはあった。
前々から気になっていたネットカフェだ。
何かの時に広告を見ていた。
そこは鍵付きの個室でシャワーだけではなく大浴場があり、
ネットもあり漫画もあり、何よりカレーが食べ放題なのだという。
なんだその楽園は。
全てを失い、しかしとりあえず食い扶持は確保している俺が宿を取る。
そのために必要なのは安いホテルではない。
諸々のコストを考えたときに快活クラブも選択肢に入るのだろうが、
その時点では俺にはそこしかなかった。
「グランカスタマ」
俺の知らない歌舞伎町のど真ん中。
行き場を失ったトー横キッズが暴れまわるという噂の歌舞伎町。
今となっては年老いた俺が流れ着いて身を寄せる場所は、
そこしかなかったわけだ。
2023年1月2日深夜。
俺はホームレスになり歌舞伎町グランカスタマに潜り込んだ。