ハッピーハードコア⑥

1996年初頭。

相変わらずの偽物の浪人生活を過ごし、
相変わらず浪人仲間に心配されながら、
どうにかまずは浪人一年目のインセンティブで推薦受験。
不合格。

一般入試。
もうこれでダメなら終わり。

受けたのは本命の文芸、押さえの建築、ワンチャンの映像。

しかしこの中で一番簡単なのは文芸。建築はもっと偏差値が高い。
まあ、何とかなるだろう。
そんな根拠のない自信というか諦めというか開き直りで突き進んだ。

忘れられない。

当時の受験では建築だけが面接があった。

集団面接で5人づつが面接を受ける。
俺は最後の最後だった。
たぶん200人くらいいただろうか。40組ほどの面接が消化されるそれを待ちながら、ひたすら待ちながら時を過ごす。

そしてついにやってきた俺の番。

制服を着た真面目そうな男子と女子と私服の俺。
5人いない、もう3人しかいない。
前に並ぶ面接官は三人、もう受験生の話を聞き飽きてふんぞり返っている。

「はい、では皆さん志望動機をどうぞ」

いやザックリ!適当!

もう見るからに飽きてるし適当。それは手に取るように分かった。

おそらく現役の男子曰く
「祖父の家の改築を見ていて建築に云々・・」

恐らく現役の女子曰く
「住宅展示場を観に行くのが自分は好きで云々・・・」

面接官はもう鼻でもほじりだす勢いで目も死んでいる。
ヤバい、これはもう俺の話なぞ聞く気もないぞこれ。

最後の最後の一人になった俺。
もうどうにでもなーれが出る。
パニック状態の脳みそから捻くりだされたのは、
図書館で観ていたある写真集の事だった。

「自分が建築で面白いと思ったのはサグラダファミリアです」

その場にいた全員がポカーンとなった。
次の瞬間、椅子に寄りかかっていた面接官の一人がテーブルに肘をついた。

「ほう、サグラダファミリアの何が面白い?」
「はい、ガウディがあれを設計してから80年以上経ち完成には尚100年以上かかるとか言われてますけど、それって面白くないですか?」
「何が面白い!?」

三人いるうちの二人が還ってきた。

「ええ、だって本人はもう死んでるんですよ!?それなのにその設計に基づいてその後も多くの人間を巻き込んでその記録とエネルギーは生き続ける。完成してないのに石工とかそこで働く人間とか巻き込んでいつ完成するか分からないものに向かって突き進んでいくんですよ。物凄い力があると思うんですよ。だからそれを学びたいと思いました。ここで」

嘘八百並べ立てた。
ただただ浪人時代に図書館で得た教養のみを頼りに嘘八百。
三人の面接官は全員が眼を爛々とさせて俺の話を聞いていた。

合格発表。

俺は建築学科に合格した。

デッサンも何も学ばず、ただ嘘八百で。

文芸学科と映像学科は落ちた。

なんでやねん。

こうして俺は晴れて大阪芸術大学の坂を登る許可を得たのだった。