ハッピーハードコア⑨

入学式。

どこだったか、中之島のフェスティバルホールだったか。

ガッチリとポールスミスで揃えたスーツに身を包み向かった。
誰も俺を知る者のない、独りきりで向かう祝いの場所。
これはもう旅だ、新しい場所への旅。

見知らぬ新生活を迎えた学生の群れに俺も紛れて、ろくに話も聞かずにただその時が流れる事を味わっていた。そして式が終わりそそくさと帰ろうとしていたその時、見ず知らずの男が声をかけてきた。

「おい!ピンクやなぁ!」

そう、俺の頭はピンク。それは間違いないが。

「今から飲みに行くから一緒に行こうぜ!」

俺よりも歳が上に見えるおっさんに声をかけられる。しかしそいつも入学生らしい。俺は気後れもしたがビビっているとは思われたくなくて、ただ言葉少なに、

「おう、ええで」

とだけ答えてそいつについていった。

十人ほどの集団に紛れてそのまま飲み会に参加した。もちろんだれも知らない。
その場に集まった奴らはそれぞれバラバラに集まったようで、俺に声をかけてきた奴は後から知ったが堺のほうで族の頭をやってた奴らしい。さすが組織作りが上手い。こうして大学に入って最初の人的交流が始まった。この場に集った奴らとはこの後も着かず離れずすれ違う事になる。20年以上経つ今も。

ピンクの髪とポールスミスのスーツは俺に最初の扉を開いてくれた。それと同時に、きっと俺の本質とは違う姿を周囲に映したのだろう。その始まりともいえる。ハリネズミみたいな赤髪のガリガリ野郎がやけに元気に話しかけてきた。

「おい、おまえおもろいな!なんやその頭!」

お前に言われたくないと思いながら、どこか妙にハマらない感じ。中には異様なオーラ纏った奴もいたが、ここには俺が探している「人」はいない。そう感じながらハレの日を楽しみ遊んだ。

こんなもんなんかな、なんとなく寂しさを感じながら俺は家路に着いた。
そして家に帰ると親父と顔を合わせた、親父は俺の頭を見ても何も言わなかった。季節が変わったようだ。新しい春が始まったのだ。