グランカスタマ⑥

エレベーターを降りるとそこはダンジョン。

見た目は壁に貼られた光沢のある内装材でラグジュアリーな廊下。
しかし、入り組んだそれはまさにダンジョン。

虫の巣といおうか、
限られた敷地にギュッと押し込んだ間取り。
そのマップが廊下にあるのだが、
このマップが正確であることを知るのはもうちょっと後の話。

アテンドされた部屋にとりあえず荷物を置き、
部屋というか、窓もなく一畳ほどの隔離区画された場所。
それはまさに独房。
しかし、今の俺にはそれが何より有難い。

少なくとも、他から隔絶された、
少し間だけ一人になれる、独りの俺の場所を確保できる。
今は、それだけでただ有難い。

なにより、寒さに命を脅かされることなく、
ぼんやりとだが人の生きる場所に居る事ができる安堵。
帰る場所を失う人間の心細さ、
それを知って拠り所のない、
行き場のない感情が喉の奥から戻ってくるのを抑え込んで耐える。

だから俺は夜の歌舞伎町を散歩することにした。
もう、帰るところは無いのだ。
ただ、ここからまた俺は、独りで始めるのだ。
そんな気持ちを持て余しているぐらいなら、
歌舞伎町で暴れまわるトー横キッズや変わり果てた想い出でも眺めに行こうと。

金もない、情けない、ダサいおじさん。
それが俺だ。
光と影が渦巻く、情報が氾濫する街にそんな自分を紛らわせるため部屋を出て、エレベーターに向かう。

油圧式かと思うほどにトロいエレベーターがゆったりやってくる。
そしてドアが開いた。

先客が乗っている。
ちょんまげ2ブロックのスーツニキ。
これはまた尖がってるね。

ニキは電話している。

「おん、おんおん、それは分かってるから?で??」

荒ぶるちょんまげ2ブロックスーツニキ。

ちょっとこっちを見て声を潜めつつ、
しかし揉めているのは間違いなく。
いや、エレベーター内でそれはやめてよ、
辛いよこっちは。

一階に着いてニキは肩で風切って出て行った。
何を揉めてるのか知らんが耳に残る言葉は、

「そんなもんTENGAでも買っとけ!」

お、おう。
ドンキが安いみたいよニキ。