グランカスタマ⑧

ひとしきり看板ウォッチを終えて寝床に帰ってきた。

さて、とりあえず飯と酒だな。

グランカスタマ歌舞伎町の一階は受付とコンビニになっており、
謎のアジアンブランコが設置されている。

俺が帰ってくると先ほどとは別のトー横キッズの女子がブランコに乗って楽しそうにしている。このブランコはよほどいい暇つぶしなんだろう。そして「わたし可愛い」を映えるアイテム。なんて考えながら嫌気がさす。

彼女はたいそう襟が大きなコートを着て、白いタイツを履いた足を惜しげもなく見せびらかして、そんなに激しく乗るもんでもないブランコを揺らしている。
不思議とエロさは無く、そこはかとない幼さと儚さが詫び寂び。
いかにも歌舞伎町、これが今の歌舞伎町ということか。

こういう詫び寂びは10年前の歌舞伎町には無かった。
いわゆる「萌え」がこの街にも浸透してきたのだろう。
ドぎつい夜の装いにカワイくて萌えのある装いが馴染んだ。
しかしやってる事は昔より幼く危険で定めがない。

歌舞伎町の新しいモードを横目に見ながらふとグランカスタマには大浴場があることを思い出した。俺はとりあえずささっと風呂に入り、ゆっくりと足伸ばして流した汗の分だけ一階のコンビニで酒を買い込む。思えば今日はろくに食っていない。もはや何を食ってもいいわけだが、だからといって好きに食っていては体がもたぬ。思えば俺の親父も50歳過ぎで家を出て行った、追い出したのは俺。つまり、どんな理由があろうとも自分の父親を家から追い出した報いを俺は受けているのだろう。そんなことを想った。親父は家を出てから程なく糖尿病で体を壊した、俺もその気があるから同じ轍は踏めない。

野菜、発酵食品、酒。気にしながら選ぶ。
そう、俺は東京のど真ん中でサバイバルしている。いま、一つ一つの選択が明日の自分の命を決める。寝床、トイレ、洗濯、食事。何一つ安定していない。明日はどこで何をしているか分からない暮らし。わずかな金があるからとりあえずエアコンが聞いた空間は確保できているが、今の俺はホームレスに違いは無い。

コンビニの総菜を選びながら肝を冷やしつつ、今欲しい物を抱えてレジに並ぶ。
俺の前に色白の若い男が二人、男、男か?いや男だな。
しかし、二人とも頭に赤い耳がついている。顔を見るとオルチャンとかいうやつか、白塗りのような例のあれ。

「ねぇねぇ、あれ買う?キノコ?タケノコ?」
「ええ!?どっち派?キノコ派?」
「うんタケノコ?キノコどっちでもよくね?」
「それな、美味いしな」
「それな」

レジに並びながらふと思う、今も昔もそんなに変わらんのだなぁと。
トー横キッズと呼ばれるこの赤い耳したキッズは、
差異ではなく本質を捉えた。

それな。