グランカスタマ⑨

窓もない、一畳程度の空間。

そこに引きこもって得られる安心感は何より現実から俺を守ってくれた。

安い酒を呑んでyoutubeを観ながらひと時、脳を殺す。

幸いにも金もルートも無いから草も玉も粉も手に入らない。

安く優しく酒を呑んで山田五郎の与太話を聴きながら過ごす安寧。

あっという間に朝がやってくる。

必要もないのにカレーを食って、無駄に卵を乗せて体に良いと言いきかせ、
泊まりにかけた僅かな金の元を取ろうと必死にカレーを胃袋に流し込む。

地下にあるカレーと漫画が並べられた沈黙のコーナーにいると、
そこにどこから来たのか、どこに行くのかも分からない、
歳も姿もバラバラな男と女が皆一様に黙々とカレーを胃袋に流し込んでいる。
嫌が応にも今の自分を突き付けられる。

そして俺はバックパックに今の自分のすべてを詰め込んで歌舞伎町に出ていく。
そして都庁前に何食わぬ顔して出勤していく。

ホームレスであることを誰に告げるわけもなく、
キレイなオフィスで何食わぬ顔で仕事をする。

周りで働く同僚たちはそれぞれどこかに帰っていくが、
俺はどこにも帰る事が出来ずにまた歌舞伎町に帰っていく。

行き場のない、頼るものもない、寂しさ。

そんなことを知る由もない歌舞伎町のトー横には今日もキッズが群れ遊び、
人目を避けた場所にジョグを停めてまた宿をとる。
思えばあのキッズ達の親は俺と同年代か。
おい、お前らの親父もこうして歌舞伎町で生きているぜ。

もう慣れたもんでさっさとチェックしてグランカスタマのエレベーターへ。
チェックインした時にもらえるドリンクチケットで飲みものを取り、
安定のノロい油圧式かと想うような箱がやって来た。

ドアが開き乗り込むと他の客が駆け込んできた。

厳ついダブルのライダーズジャケット。
顔を見ると俺よりも年上のおっさん。
顔に刻まれた深い皺は、バイクと共に風を切ってきた証。

今日は4階だから長い、バイカー親父は沈黙。
時折その筋肉の動きに合わせてライダースジャケットが軋む。
機械の音とよく手入れされたジャケットから油の匂い。

なんでこんな厳ついおやじがここで休むのか。

ライダーは3階で降りて行った。
ああ、そろそろ洗濯しなくちゃな。