次の日もそつなく、何食わぬ顔で仕事をこなしまた歌舞伎町に帰ってきた。
そして受付を済ます。
「お部屋どうしますか?」
いつものように一畳部屋かと思いつつも、ワンチャン例のチャレンジ。
「ロフト空いてます?」
「ええ~と、空いてますね」
きた。
グランカスタマの個室は各部屋ごとに広さが微妙に違う。限られた面積のフロアを仕切っており、その部屋の区切り方によって広さと体感が違っている。その中でもロフト部屋は格別に広く、その名の通りロフト付きで仕事もできるほど広さがある。さらにそのロフト部屋でも場所によって広さが違うという仕様になっており、そこを抑える事ができるかどうかは運である。故にステイ常連の中には24時間更新の瞬間に受付で延長を申し出る者もおり、数百円の違いで格段に快適になるそのスペースを抑える事は一畳部屋で過ごすこととは格段の違いがある。
ついに、グランカスタマ部屋ガチャに勝った。
俺は逸る気持ちを抑えながら糞遅い油圧式の箱に乗り込み、憧れのロフト部屋に入った。驚くことにそこはロフトでも一番広い部屋であった。
「ひゃっふーー!!!!」
俺は思わず備え付けの椅子に座ってフロアでくるくると回ってみたり、
好き放題に荷物を乱雑に置いてみたり、なんでもない日常を全力で楽しんだ。
ひとしきりロフト部屋を楽しんだ後に風呂。
大浴場にゆっくりと浸かって汗を流し、心身ともにリラックスし部屋に戻ろうとしたその時モップを持ったスタッフとすれ違った。そのスタッフは見たことのないTシャツを着ており、俺は「あっちょと待って」と声をかけた。
そう、グランカスタマ名物であるレアスタッフである。
説明しよう、グランカスタマ内には通常のスタッフとは別のTシャツを着たレアスタッフが徘徊しており、そのスタッフに声をかけるとステイ時間延長クーポンなどの特典をゲットできるのだ。
柔道部っぽい感じの陰キャ丸出しスタッフは俺にニヤリと笑いかけ、
「どうぞ」と言葉少なにチケット渡し去っていった。無駄なコミュニケーションはしない。ここは歌舞伎町グランカスタマ。誰もが静かにすれ違っていくだけの仮の宿。
そして部屋に帰ると電話に着信。それはネットで見つけた安い物件に申し込んだ返事だった。さっそく折り返す。
「ああどうも、ご連絡いただいてたアースプランニングのハヤシです」
「どうも、部屋空いてますか?」
「いやぁすみません、例の部屋はまだ退去前でちょっとお時間もらうんですよ」
「そうなんですか?すぐに入れると思ったんですが」
「ですよね!ちょっと手間取ってまして」
「分かりました、ではしょうがないですね」
「ちょっと待ってください!練馬近くで3万円台ですよね!あるんですよ!」
「え!?」
「しかも風呂便所別!駅から歩いて10分以内です!」
「ええ!?」
もう怪しさプンプン。しかもこの不動産屋とは電話でしか話していない。
しかし、乗るしかないこのビッグウェーブに。
波が来ている、風が吹き始めた。
グランカスタマの祝福が俺に囁きかけていた。